2009年度卒業論文 結果報告

研究テーマ:「現代青年の対人場面における性役割行動に関する研究」


<目次>
1.問題と目的
2.方法
3.結果
4.考察



1.問題と目的

 現在,わが国においては男女平等の考え方は一般に広まり,性役割意識は平等化しているとされています。しかし,どのような男女のあり方を男女平等と捉えるのか,という問題と,日常場面に目を向けた際に,男女は決して同じとはいえない,という問題が依然としてあります。
 そこで本研究においては,対人場面によって性役割行動の遂行度に違いがあるのかを検討することを第一の目的としました。また,性役割観は行動にどの程度影響を及ぼすのかについての検討を第二の目的,性役割行動に対する葛藤について検討することを第三の目的として,以下のような仮説を立てました。

@対人場面によって性役割行動の遂行度は異なる。
(友人といる際は性役割にとらわれず振舞うが,異性といる際は自分の性に合致した性役割行動をとる。)
A性役割観は性役割行動の遂行に関連する。
(平等主義的性役割観を持つ人は,伝統的性役割観を持つ人に比べ,性役割にとらわれず振舞う。)
B性役割行動をとることに葛藤を持つ場合がある。
(同性といる場面では,性役割行動をとりたくなければとらない。それに対し,異性といる場面では本当は嫌でも性役割行動をとることがある。)



2.方法

 2009年12月に,大学生を対象に質問紙による調査を行いました。401名(男性185名,女性216名)が分析の対象となりました。
 質問紙に用いた項目については以下の通りです。また,対人場面については,
・同性友人:「仲のよい男(女)友達といるとき」
・好意異性:「好意をもっている女性(男性)といるとき」
・異性友人:「仲のよい女(男)友達といるとき」
という3場面を設定しました。

<性役割行動に関する項目>(自作)
※3場面それぞれについて,「あなたのとる行動にどの程度あてはまるか」を「当てはまらない〜当てはまる」の5件法で質問。

表1,2


<性役割受容に関する項目>(自作)
※3場面それぞれについて,「あなたの気持ちにどの程度あてはまるか」を「当てはまらない〜当てはまる」の5件法で質問。

表3


<性役割観に関する項目>(SESRA-Sという鈴木(1994)によって作成された尺度を使用)

表4


3.結果

(1)性役割行動について

 性役割行動についての分析の結果,男女とも場面によって男性行動・女性行動の遂行度を変えていること,さらに同性友人場面では男性行動と女性行動の遂行度に差は無いが,異性場面,特に好意異性場面において,より性別に合致した性役割行動をとる傾向があることがわかりました。
 したがって,「対人場面によって性役割行動の遂行度は異なり,友人といる際は性役割にとらわれず振舞うが,異性といる際は自分の性に合致した性役割行動をとる」という仮説は支持されました。

図1 図2


(2)性役割受容について

 性役割受容(男(女)でよかった,男(女)らしくしたい,という気持ち)については,男性についても女性についても場面によって違いがあり,好意異性場面,同性友人場面,異性友人場面の順で高いことがわかりました。
図3


(3)性役割観について

 全体的に,平等主義的な性役割観を持つ傾向がうかがえました。


(4)性役割観・性役割受容と性役割行動の関連

 性役割観・性役割受容と各場面での行動との関連を分析しました。性役割観と性役割行動にはほとんど関連はみられませんでした。したがって,「性役割観は性役割行動の遂行に関連する」という仮説は支持されませんでした。
 ちなみに性役割受容と性役割行動の関連についても分析してみたところ,女性の場合は性役割受容が全ての場面における女性行動に関連しており,男性の場合は性役割受容が好意異性場面・異性友人場面における男性行動に影響していました。


(5)性役割行動に対する葛藤の検討

 男(女)らしくしたくないけど男(女)らしく振舞っている群を「葛藤群」としました。
分析の結果から,男女ともに異性友人,好意異性,同性友人の順に葛藤群が多く,同性場面に比べ異性場面に多いことがわかりました。
 したがって「性役割行動をとることに葛藤を持つ場合があり,同性といる場面では,性役割行動をとりたくなければとらない。それに対し,異性といる場面では本当は嫌でも性役割行動をとることがある」という仮説はおおむね支持されました。また,女性に比べ男性に葛藤群の場面間でのパーセンテージの差は大きい傾向がありました。



4.考察

 場面によって性役割行動の遂行度に違いがあることが明らかになった一方で,性役割観は性役割行動に関連しないことがわかりました。この結果から,一般的な性役割に対する意識や態度と,実際場面でどのような行動をとるかは関係無いといえます。男女平等の意識は大学生に浸透しているにも関わらず,現実場面,特に恋愛場面において性役割に合致した行動がとられるということは,少なくとも実際の行動について,「男女を完全に等しくするべき」という考え方には限界があるのではないでしょうか。
 また,性役割に対する葛藤の存在も示唆されました。これまで性役割についての問題は女性の問題として取り上げられることが多かったのですが,近年では男性の問題としても,うつや過労死などに繋がるものであると考えられており,いっそうの検討が求められます。
 今後は,「男は男らしく,女は女らしくするべき」という考え方でも,「男女を完全に等しく扱うべき」という考え方でもなく,個人差を否定しない,多様な性役割のあり方を認めていく必要があるのではないでしょうか。



2010.3 by Iyo Iwamoto